■プロローグ〜あるハーフリングの旅立ち〜
『待て!ニリップス!』
ガサガサと草の上を騒がしく駆けていく音と大声で怒鳴り散らす声が聞こえきた。
この大声に驚いた僕は、不覚にもベッドから転げ落ちてしまい、少々散らかった床の上でおでこに小さな戦利品をいただくことになった。朝っぱらだというのに、リーボおじさんも元気なことだ。外の景色はうっすらと色が帯びてきたが、まだまだ起き出す時間じゃぁない。少なくとも僕にとっては。
ニリップスというのはこの街に住み着いてるブラウニーの名前だ。おおかたリーボおじさんの畑から、ジャムジャムを盗み出したんだろう。この二人の捕り物は、この辺では有名なことだ。
僕の名前はペリック。ここリバーベイル生まれのハーフリング族だ。リバーベイルは、神話の時代から続く立派な森に囲まれた、自然と動物と僕らハーフリングが共存する素晴らしい街だ。家族は父さんとの2人暮らし。母さんは僕の小さい頃に死んでしまった。
僕が2つの時、遠くの大陸から来た大ネズミが媒介となって、リバーベイルで疫病が大流行した。老人や赤ん坊みたいな抵抗力がない者がかかると、ほぼ確実に死に至るものだ。街の僧侶も病にかかり、思うように治療が進まない中、とうとう僕も感染してしまったそうだ。すっかり取り乱してしまった母さんは、真夜中だというのに、この大陸最大の都市フリーポートへ助けを求めに、キシコールの森へと飛び出した。キシコールの森は非常に危険な場所で、夜になると魂を失った生ける死体たちが徘徊する。不運にも母はこのアンデッドたちに襲われてしまったのだ。母の死体が見つかったとき、それはとても正視に堪えられるものではなかったと、実際に立ち会った保安官が話してくれた。それ以来父は森を入ることを極端に嫌っている。
逆に僕は小さい頃から、このリバーベイルの森が大好きだ。森を駆け回り、木に上り、動物と遊び、大きくなったら自然とともに暮らすレンジャーになろうと心に決めていた。父は僕に聖職者になることを望んでいたようだが、僕には毛頭そんな気はなかった。
リーボおじさんの騒ぎですっかり目が覚めてしまった僕は、顔を洗い身支度を整えた。父さんもどうやら起きてしまったようだ。
『おい、本当にその髭は剃らんつもりなのか。』
朝食の準備を始めた僕の顔をしげしげと見つめて、父さんが言った。去年正式なレンジャーになれるようにトレーニングを始めてから、この髭を伸ばし続けている。
『絶対に剃らないよ。それに自分では気に入ってるんだ。』
そう、僕は今日正式なレンジャーとして、ストーム・リーパー・ギルドに入隊するんだ。現役レンジャーである叔父のテストにもパスして(父さんからは特に厳しくしてくれと言われてたらしい。)、紹介状も書いてもらった。
父さんはあまり話す人ではない。昔はおしゃべり好きだったが、母の事件以来、すっかり口数が減ってしまったと聞いたことがある。結局ものごころついた時から、今の寡黙な父さんが僕にとっての父さんではあることに変わりないのではあるが。朝食をとる間も父さんは何も言わなかった。やっぱり、僕がレンジャーになることに心では反対してるんだろう。同じ森で妻と一人息子を亡くすなんてことになれば、僕にとっても非常に心苦しいものがある。
『じゃぁ、そろそろ出かけるよ。』
そう言うと僕は玄関のドアを開けた。今日からレンジャーとしての新しい生活が始まる。ゆっくりとドアをくぐり草の上に足を一歩踏み出したとき、不意に背後から父さんの声が聞こえた。
『立派なレンジャーになれよ、ペリック。』
不器用な父さんらしいそっけない言葉だが、僕は知ってる。父さんはよほどのことがないと僕を名前で呼ばないんだ。
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【ペリック】
ハーフリングの新米レンジャー。ストーム・リーパー入隊するにあたって髭を伸ばした。
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| 【リーボおじさん】 |
【ニリップス】 |
【ブラウニー】
妖精の一種で、ハーフリングの腰にも届かないぐらいの小人。少ない報酬でもたくさんの仕事を手伝ってくれるとても協力的な種族。・・・のはずだが、ニリップスに限ってはイタズラが過ぎるようではある。言い伝えでは衣服の贈り物をすると、二度と現れないとも言われている。いや試したことはないけど。
【ジャムジャム】
野菜の一種。見た目は赤カブみたいな感じだ。ハーフリング族の故郷、リバーベイルの特産品。ジャムジャム・ジュースなんかもある。断言しておこう、僕はうまいとは思わない。

【リバーベイル】
ハーフリング族の故郷。右の木造の建物が、この街の中心に位置する「愚者の黄金亭」。左側の石造りの建物は市庁舎。
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